前言撤回日記

TAKEO PAPER SHOW 2009

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ひと月ばかり前の話になるが、TAKEO PAPER SHOW 2009に行ってきた。

今年は例年にない試みで、完全事前登録制のセミナー形式である。
セミナーと言ってもスピーカーが30分にわたって一方的に話し、質疑応答は無し、撮影も録音も無しというスタイル。

通常、竹尾ペーパーショウは紙の専門商社である株式会社竹尾が、新製品のお披露目も兼ねて実力派のデザイナーに企画を任せ、デザインと紙と時代の関係にひそむ注目すべきテーマや、紙の持つ新しい可能性などを提示する、示唆に富んだ展示を行ってきたワケである。
けれども、ここへきて世界は経済的に大きな混乱を生じ、その混乱に対していかに向き合うかという問いが製紙業界においても切実なものとなった、という事なのだろう。

各講演内容は5/31までという限定付きでネット上に動画としてアップロードされている。
http://www.takeopapershow.com/

A 製品、B メディア、C 感性と三つに分かれたテーマの中で僕の受講したのはBのメディアである。
スピーカーは東大準教授の水越伸さん、コラムニストの小田島隆さん、編集者の都築響一さん、岩波書店社長の山口昭男さん、DNPの鈴木英之さん。

基本的には新聞なども含めた出版の現状と今後、メディアとしての紙の役割に関する歴史的変遷、表現という行為の本質、紙と新しいメディアによる展開、などといった内容。

特に刺激的だったのはやはり都築響一さんの講演だろうか。
というか都築さんのプレゼンテーションが非常にうまく、話に引き込まれてあっという間に終了してしまった。
ただ、テーマから言うと非常に身も蓋もない話であり、表現したいものを持っている個人や企業にはメディアの多様化は好条件として働くであろうけれども、こと「紙」という側面に絞った場合、例えば竹尾の商うような高級商材としての紙はそうとう厳しい戦いを強いられるだろうと予想させた。
そこにはユニクロと百貨店の明暗を見ればクオリティ追求による差別化が進むべき方向ではない事は明らか、という示唆も含まれる。

岩波書店の山口社長は他者の言葉や事例を数多く引用しつつ、紙や書籍の「魅力」を感覚的に繰り返し説かれるのだが、そこに示されたマーケットのデータから読み取れるものはなかなかその感覚を裏付けている、とは捉えにくく、出版社社長という立場上、どうしてもポジショントークに見えてしまうあたりがいかにも残念だった。
山口社長の説く紙のアドバンテージは確かにあるとは思うのだが、大切なのはそれを説得力を持って市場にアピールし、浸透させていく事だろうと思う。
そしてそういった広報活動をやっていくにあたってはやはり紙以外のメディアを積極的に使って、という事が必要になるはずであり、ネットやケータイ、あるいはテレビ、映画、演劇、スポーツ、音楽などが紙メディアを通じてその魅力をアピールしたのとまさに逆の浸透を促さねばならない。

DNPの鈴木さんは最後ギリギリにAR(拡張現実)に関する興味深いプレゼンテーションがあったのだが、前半に自社サービスの宣伝に時間を使いすぎて若干消化不良。

小田島さんはリテラルな情報をグラフィカルな情報に変換するというレイアウトの機能、グラフィックに対する人間の処理能力の驚異、そこから新聞の一覧性、ブラウザビリティの持つWebに対する優位性を説く。
また、新聞を読む際の「ブラウザビリティを活用する能力」そのものの向上(速読とか)と「紙メディアの情報にアクセスできるという逆説的な優位性」が今度は受け手・ユーザー自身に差をもたらすのでは、という指摘も。

水越さんの身体とメディアの関係性から見直す、という視点も興味をそそられる。人がメディアと遊ばなくなるとメディアが硬直化してくる、という話を新聞紙でカブトを折るという経験を通して語られたが、そういう意味ではWebもこの10年でかなり硬直化してきているという事になるだろう。
ここを初期の混沌に立ち戻って別の進化を探るというのもひょっとすると可能性があるのかもしれない。

といった具合で各講演ともさまざまな可能性について言及しつつも紙メディアの具体的な未来像はおのおの考えておくれな、という話であり、なかなかに悩みは深いと言わざるをえない。難儀よのう。

あとは現場で観ていない講演を動画で順次チェック中。深澤直人さんの動画はUPされないのかしら。

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